不愉快、不愉快
*毒舌水底
*永→→←底
「君が好きだよ」
「私は貴方が嫌いだわ」
甘ったるい言葉にそう即答すると知ってる、なんて薄い笑い声が降ってきて不愉快になった。そもそもどうして今私は後ろから抱き締められているのだろう。
「…ところで離してくれないかしら」
「うん、もう少ししたらね」
「…………」
私の言葉に従わないのはいつも通りだから反論する気も失せてしまった。彼が嫌い。彼といるととても不愉快。落ち着かない。もういっそ殺してしまいたいって何度思っただろう。一度も実行したことなんてないのだけれど。
「ふ…」
「何」
「あからさまに嫌な顔してる」
「ごめんなさいね、正直なの」
そういうと彼はまた笑う。それが気にくわなくて横目で睨み付けたけど何の効果もなかった。早くいなくなってしまえばいいのに。
「逃げないでいてくれるのも、正直だから?」
「……羨ましい脳ミソね」
「可愛い」
話しも通じなくなってしまったのかと私は溜め息を吐いた。でもそれが彼という存在なのよね。だけど勘違いしないで欲しい。私は彼が嫌いなのだ。この世界の何よりも。だから無駄だと知っている抵抗はしないだけなの。
そして何も言わないまま私は彼に身体を預けた。盗み見た彼の顔は驚くくらい穏やかな微笑を浮かべていて、ああやっぱりその緋色の瞳だけは綺麗だわなんて思ったり。
不愉快、不愉快
(あなたがせかいでいちばんきらい)
fin